どうしようもない始まり





 俺の名はフェルナンド]V世。皆からはフェルナンドとかフェルって呼ばれてる。いや、つうか、まんまだけど。
 家を継げだとか何だかんだっていうのが面倒で、気ままな修業の旅に出るべく、俺は単身、生まれ育った村から外の世界へと足を踏み出した。そしたら、いつの間にか幼なじみのミカエラまでついて来てて……。
 “運命の王子様”に出会うことを夢見てるアイツは、こんな小さな村なんかじゃ可能性なんかゼロに近いと踏んだのか。だから俺が旅に出ることに便乗して、ついて来たんだろう。
 ま、回復魔法の使えるミカエラがいれば、少しは旅も楽になるかな。そんな軽い気持ちで、同行を許すんじゃなかったと、今は激しく後悔している。
 まさかこんなことになるなんて、あのときの俺は、思いもしなかったんだ。



「……いや、ミカエラ? ちょっと待てよ、これ、おかしくねぇか?」
 俺は、目の前でにっこりと微笑むミカエラに、疑問符を投げかけた。おかしい、どう考えてもおかしい提案に、俺は眉を寄せて、ミカエラに指摘した。
「何が?」
「な、何がって……何でお前は宿で俺は野宿しなきゃならないんだよ!」
 旅を始めてから数日後。目的の町まではまだ遠く、どこかで一夜を過ごさなくてはならなくなった俺たちは、近くの町に立ち寄った。それなりに安い宿屋があったが、元々所持金も少なく、これからのことも考えると、どうにも切り詰めないと拙い状況で……。この辺りは治安も悪くはないから、野宿にしようと提案したのだが。ミカエラは一人荷物を纏めて、宿に泊まると言いだしたのだ。
「あら、アンタが最初に野宿するって言ったんじゃない」
「いや、言ったけどさ、それは金がないからって……」
「か弱い女の子を外で寝かせるなんて、どんな神経してんのよ」
 か弱いか? という言葉は飲み込んだ。それに昨日は野宿したよな、とも思ったが……あえて言わなかった。言ったら言ったで、後が怖い。
「だったら一部屋に二人でって……」
「変態」
「あ゛ーもう! だから俺はお前になんか興味の欠片もないから何もしないって!」
 大体長く幼なじみやってるんだ、妹、くらいにしか思ってないよ。そう言うとミカエラも、確かに、と呟いた。
「アンタにそんな勇気なんかないわよね」
「興味がな」
「うっさい」
 ミカエラはそう言うと、杖で俺の頭を殴った。正直痛い。一人悶絶していると、ミカエラはスタスタと歩いていった。
「明日の朝になったら迎えに来てね」
「……」
 結局はこうなるのか。
 早く町に出て、大きな依頼でも貰わないと、俺は飢えと寒さとで死ぬんじゃないか。不意に、そんなことを思った。だけど、なぁ。正直アイツは我儘だけど、まぁ妹みたいなもんだし……。仕方ないかと溜息をついた。
 翌朝、俺は見事に風邪をひいていた。


フェルナンドとミカエラのしょーもない話。
ミカエラは夢見る乙女だといいよ。

2006/10/13