ともだち





 俺はずっと一人だった。広い海の中、一人でぷかぷかと漂っていた。
 いや、俺以外の生き物はたくさんいた。けど、俺は一人だった。
 ただ、流れに身を任せていた。そんなときだった。あの子が、俺の元にやって来たのは。



 南極。見回す世界は氷と海。けど一応、大陸。南のくせに結構寒い、そんな場所。俺は今日も、氷の浮かぶ海でぷかぷかと漂っていた。
 ふと、視界に違和感を覚えた。普段この海で見ないような色が、陸の上を歩いていたのだ。
「あれぇ〜? ここどこ……?」
 そう言ってキョロキョロと辺りを見回していたのは、人でないようで人の形をし、人であって人の雰囲気でない、不思議な子。あの子は、このあたりでは見ない、とても珍しい姿をしていた。
 海から陸へとはい上がって、氷の影に隠れて、遠目から見てみた。確か褐色、というのだろうか、あまり見ない肌の色だった。そして深めに被ったカラフルな帽子、ぴょこんと立った耳(俺にはそう見えた)、上半身は裸で、申し訳程度のハーフパンツ。
 可愛いなぁ。ふと、そう思った。俺は滅多に、自分以外の、人や人のように見えるが人でない生き物に、会ったことがなかった。いや、人にも、そうでない生き物にも、たくさん会った。だけど、自分がこんな姿だから、いい思い出なんか何一つなかった。だから、自分以外の生き物の何が可愛くて、何が可愛くないのかなんて、解らなかった。
 けど、あの子を見たら可愛いと思った。
 俺は一応、オス。あの子もきっと、オス。同じ性別だけど、俺はあの子を可愛いと思った。オスだから、オスを可愛いと思わない筈なのに。
「あっ、ダレかいるねぇ?」
 びっくりした。急にあの子の耳がピクリと動いたと思ったら、俺は氷の影に隠れていたというのに、こっちに向かって走ってきたからだ。
 ぴょこぴょこと跳ねるように走ってきたあの子は、俺の前でぴたりと止まった。すると、帽子を深く被っているから目元は見えないが、口元はにっこりと笑みを浮かべた。間近で見ると、彼は思ったよりも長身で、思わず驚いた。
「こんにちはっ。はじめましてだね〜」
 ペコりと頭を下げた彼は、潜水服の中でたぷたぷと波打つ俺を見ても『恐い』とか『気持ち悪い』とか思わないのか、ずっとニコニコと笑っていた。
 嬉しかった。俺はこんな中途半端な姿をしているから、何度も『恐い』と遠ざけられ、『気持ち悪い』と罵られたのに。
「あのねぇ、ボクは、ブラウンっていうんだ〜。キミの名前はなぁに?」
 ほわほわとした優しい声と、ニコニコと可愛い笑顔を見せる彼に、俺は何も言えなかった。
 俺は人ではないから、声がなかった。
 いや、正しく言うと、声帯がないのだ。だから声を出すことは出来ないが、相手の脳に直接意志を伝えることは可能だった。しかし、もしそれで彼が恐がってしまったら。
「……あ、ごめんね。キミはもしかして、喋れない?」
 しゅん、と耳を下げた彼がどうにも悲しそうに見えて、俺は首をぶんぶんと横に振った。そして恐がられることを覚悟して、彼へと意志を伝えた。
『俺は、サウスっていう名前』
 直後、彼は驚いたように口をぽかんと開け、固まった。また、恐がらせてしまったのかと、嫌われてしまうのかと、俺は恐くなった。
 しかし彼は、ぱぁっと表情を変えた。
「わぁ! 聞こえた! 聞こえてないのに聞こえた! スゴいね〜!」
 俺の能力を彼は気味悪がるどころか逆に喜んでくれたようで、ぴょんぴょんと跳ねた。アクションが少しオーバー気味だけど、そこがまた可愛かった。
 仲良くなりたいと思ったときに、彼は俺の両腕を掴んで、上下にぶんぶんと振った。
「サウス! 今日からお友達だね〜!」
 ぶんぶんと上下に動く自分と彼の両腕を見ながら、実際は泣けないけど、泣きそうになった。
 初めて、友達が出来たから。
 ただそのとき、どこかがチクリと痛んだけど、どこかは解らなかった。


サウブラ出会い編。ていうか陵辱エロから派生した感じ?
サウスがブラウンたんにメロメロ。

2006/10/13