苦労人と居候





 東京、某所。サイレン宅。
 サイレンの家(とは言っても、安いアパートだが)には、まるで成長期の子供のような居候が二人、いた。
 自己中で俺様な性格のニクスと、常識人で口数の少ない英利。仲がいいのか悪いのか、二人は楽しげに話を始めたと思ったら、すぐに喧嘩を始める。そしてよく食べる。
 今日も今日とてサイレンは、居候二人のために食事を作っていた。
「……はい、お待たせしましたです。今日は鰤の煮付けを作りましたよ」
 そう言ってサイレンは、細々(こまごま)と二人の前に皿を並べていった。大抵の場合、英利は気を効かせて手伝ってくれるが、ニクスは基本的に“見てるだけ”であった。
「お、美味そうだな」
「魚かよ……俺は肉がいい! 肉!」
 サイレンは日本食が好きでよく作るのだが、その度にニクスは口を尖らせて文句を言った。彼はハーフと言えどアメリカの血が濃いのか、濃いめの味つけと、肉類が特に好きだった。
「ニクス、好き嫌いはいけませんですよ」
「やーだ。俺は肉がいいんだ」
 肉肉肉! そう喚くニクスはまるで我儘を言う子供のようで、サイレンはいつも手を焼いていた。とはいえ、彼らは本来勝手に住み着いた居候であり、サイレンが食事を作る必要性など皆無なのだが。
 サイレンは心の中で溜息をついた。ふと横を見れば、英利は既に食事を始めていた。
「……うん、美味いな」
 これくらい素直に食べてくれればいいのに。サイレンはいつもそう思っていた。ニクスは好き嫌いが激しく、もし嫌いな物が食卓に並ぶと、食べてくれないときもあるのだ。
 ……だから、本来勝手に住み着いた居候である二人に、サイレンが食事を作る義務などないのだが。しかし、ついつい世話を焼いてしまうのは、年長者としての性か、はたまたお節介好きなのか。
 泣き泣き、サイレンは妥協案を提示することにした。
「……デザートに、アイスクリームつけますから」
「よし。食ってやるか」
 ニクスの攻略は、案外簡単なものであった。彼は餌で釣れば、簡単に乗ってくるのだ。
「……はぁ」
 今月も赤字だ。サイレンは独り、溜息をついた。


サイレンが大好きです。

2007/12/14